私的スガシカオ名盤5選
スガシカオが好きだ。
朝日美穂がかつて彼の音楽のことを「心の隙間に入り込んで嫌な気持ちにさせる音楽」的なことを言っていたのだけど、ビーポジティブな風潮の強いJポップのフィールドにおいて、スガシカオほど歪な存在はそうそういないと思う。
おれはスガシカオの音楽はファーストアルバムから順を追って全て聴いてきた。
熱狂的なファンとまでは言えないが、それなりに聞き込んできたと思っている。
良くも悪くも。良くも悪くもスガシカオの音楽は変わり続けてきたし、変化を止めないことそれ自体はミュージシャンにとってとても大切なことなのでそれ自体は応援しているが、おれがスガシカオの音楽に何を求めているかによって、彼のモードが自分に合う合わないが出てくるということだ。
1997年のメジャーデビューから数えるともう23年、オリジナルアルバムも10枚以上出しているという大御所になっているスガシカオのキャリアの中から、極私的な名盤を5枚選ばせていただいた。
なお、5枚はリリース順に並べてあり、順不同である。
Clover (1997 / 1st)
スガシカオのファーストアルバムである。
いうまでもなく大傑作であり「月とナイフ」「黄金の月」といった今でもライブで演奏され続ける代表曲が多く収録されている。
打ち込みで作られたビートと生音による演奏はスガシカオ自身がアレンジを手掛けることで、非常に密室的な粘度の高いサウンドに仕上がっている。
ファンクの骨子とシティポップの清涼感をないまぜにした独創的な音楽は当時から今に至るまで他に例がなく、スガシカオの名を衝撃を持ってシーンに広めた90年代最重要アルバムのひとつ、と信じているけどあんまりそういう論調は見られないよね。
個人的ベストトラックは「黄金の月」。不朽の名曲。
SWEET (1999 / 3rd)
ここでスガシカオの歪みが浮き彫りになったと感じるサードアルバム。
前作はアグレッシブでキャッチ―なファンクが印象的だったところで、今作はより深く抉るようなミッドファンクが主体となり、テーマもバラエティに富んでいる。
スガシカオの描く詞は生々しくエグみの効いたテーマが多いにも関わらず、音楽になると乾いた質感に響くというそのアンビバレンスがより明確になった分岐点のような作品。
捨て曲無しの無欠の作品だが、オープニングを飾る「あまい果実」や、ファン人気も高い「夕立ち」などが白眉。
でも最近の気分は「ふたりのかげ」。希望と諦観が混濁したような曖昧さが刺さる。
※動画は「あまい果実」。これも最高。
Sugarless (2001 / 企画盤)
それまでのシングルB面曲と他アーティストへの提供曲に新曲を含める形でリリースされた企画盤。裏ベスト的な装丁であるが、現時点で唯一のオリコン1位獲得アルバムである。
首位を取ったのは間違いなく「夜空ノムコウ」あってのことだと思うが、この曲にイメージされるようなメロウでわかりやすい曲というのは少なく、内容はかなりどぎつい。シュガーレスとはよく言ったものだと思う。「夜空ノムコウ」で釣られた人は驚いただろうな。
シングルB面というのは割と自由にやりたいことがやれるということで、大衆性を無視したような曲が多い。「夏祭り」などはかなり過激で挑戦的な曲だと思うし、「ユビキリ」もこういう場でしてか出せないような内容だろう。
個人的には「ぬれた靴」と「坂の途中」が好き。
※当然上記2曲はYouTubeにはなく、誰もが知るこの曲を。
Suga Shikao / Beyond The Night Sky(with English subtitle)
TIME (2004 / 6th)
ほぼすべての演奏をスガシカオ本人が手掛けた密室ファンクの到達点。おれが好きなスガシカオのファンクはここがピークであった。
とにかく洒脱なメロディと神経質でエゴイスティックな詞(でも叙述的で美しい)、ドロっとしたオルタナファンクのフィーリング。すべてが高次元で結実した問答無用の大傑作である。
シティポップやファンクミュージックの再評価、再解釈が進む今の日本のシーンにおいて今作が黙殺されている状況というのはどうにももったいないと思うわけで、今作に焦点が当たると日本のブラックミュージックの縮図がまた大きく変わってくるはずである。
全曲必聴であるが、個人的ベストトラックは「カラッポ」。最高。
動画リンクはこれも素晴らしいミッドバラード「光の川」。マジで無敵だな。
THE LAST (2016 / 10th)
6枚目の「TIME」以降のアルバムは良曲こそあれ、どうにもなじめない。
そこからオーガスタ脱退、突発性難聴発症など紆余曲折を経て再びメジャーでリリースされたこの作品は、
スガシカオが久々にエゴをむき出しにした快作となった。
スガ本人をして「これまでの集大成にして第二のデビューアルバム」と語る本作には、
密室ファンク、メロウなミドルバラッド、ナーバスな弾き語り、TOP顔負けのホーンファンク、清涼感のあるポップナンバーなどこれまでの彼を形作ってきたバラエティ豊かなラインナップがそろっている。
中でも突出しているのは「海賊と黒い海」で、これは本当に最高。
まさかここにきてスガシカオ最高傑作の名曲が出てくると思わなかったと鳥肌が立った。
動画は「真夜中の虹」。
そんなわけでスガシカオの私的名盤を5枚選んでみた。
まあ身も蓋もないことを言えば、全作聴いてみてほしいし、どのアルバムにも心を抉られる名曲が入っているはず。
スガシカオに何を求めているかによって、好きな曲嫌いな曲は全然変わってくると思うし、
スガシカオは特に聴き手によって曲の評価の変動が激しいタイプのミュージシャンである。
最新作も歯ごたえのある問題作だったし、これからもやりたいことをやってもらいたいと思う。
みんな聞け!