Thundercat『It Is What It Is』は最高のスイートソウル
今年2020年リリースされたサンダーキャットの通算4作目となる『It Is What It Is』が最高である。
多分年末まで熱気冷めぬまま、各メディアのベストアルバム企画に名前が挙がるのは間違いないだろう。
大きな評価を獲得した前作『Drunk』の方向性を推進しながら、より歌とハーモニーに力が入れられた本作は、
かつてのサンダーキャットにあった難解というイメージを完全に払拭している。
It Is What It Is [解説・歌詞対訳 / ボートラ追加収録 / 国内盤] (BRC631)
- アーティスト:THUNDERCAT,サンダーキャット
- 発売日: 2020/04/03
- メディア: CD
サンダーキャットは最初からすごかった
おれがこの人のことを知ったのはいつだったか。
たぶんミュージックマガジンのディスクレビューでファーストアルバム『The Golden Age of Apocalypse』の紹介がされていたのを見たのが最初だと思う。どういう内容のレビューだったか今ではもう覚えていないがそれで興味を持ち、ブレインフィーダーやフライローなどの名前とは切り離してアルバムを買った、という感じだったかな。
The Golden Age Of Apocalypse [期間限定スペシャル・プライス盤 / 帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC443Z)
- アーティスト:Thundercat,サンダーキャット
- 発売日: 2020/04/03
- メディア: CD
今改めて聞くと、思いのほか今のイメージとそれほど乖離しているわけではないことに気づく。
ファーストから順を追って聞くとその変遷に驚いたものだが、逆にして聞くと彼の核の部分は変わりないということに気づかされるという面白い体験。みんな『Drunk』以降ばっか聴いてない?ファーストとセカンドもいいよ。
このころはまだボーカルの導入は少なく、スクエアプッシャーばりのブリブリベースとコズミックなサウンドスケープがメインとなっている。フライローのプロデュース色が強いという印象だ。
とはいえすでに"Is It Love?"などでは今につながるメロウなボーカルを披露しているし、今作がそこまで話題にならなかったのはたぶん、存在が先鋭的過ぎてまだリスナー環境が追い付いていなかった、ということなのだろう。
改めてクレジット見ると、カマシ・ワシントン、ブランドン・コールマン、オースティン・ペラルタ、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、ドリアン・コンセプトといったブレインフィーダーの主要メンバー勢ぞろいに加え、クリス・デイブ、実兄のロナルド・ブルーナー・ジュニア、そしてエリカ・バドゥといった豪華ミュージシャンもバックアップしている。すさまじいね。サンダーキャットという天才の登場にふさわしい。
シンガーソングライターとしてのサンダーキャット
前作についてはもうすさまじいくらいのレビューや批評があふれかえっているうえ、書いてしまうと文章がまとまらなくなるのでここでは割愛するが、この新作はサンダーキャットがシンガーとしての意識を強く持っていることを感じさせる。
かつての彼の音楽は「即興演奏の中に歌がある」という感じだったが、今作では最初から歌とハーモニーを見据えて作られたかのようなシンガーソングライター然としたたたずまいである。
サウンド自体もフライロープロデュースのころよりも俄然バンド寄りになってきているのも特徴だ。
もう一つ特徴的なのはヒップホップ界隈からのフィーチャリングが多いこと。
チャイルディッシュ・ガンビーノにリル・B、タイ・ダラー・サインといった大物ラッパーたちに参加してもらうことでアルバムの流れにアクセントが入り全16曲という大作の風通しが良くなっている。
どの曲も非常に美しく、AOR的とも言えるほどにメロウでセンチメンタルだ。
見た目の阿保さからは想像のつかないが、そのアンビバレントこそが彼の魅力であり強みなのだろう。
Thundercat - 'Dragonball Durag' (Official Video)
来日公演延期となったが、また見れるのを楽しみに待ちたい。