個人的GRAPEVINEディスクガイド Part.01
GRAPEVINEが好きだ。
最近は日本のロックという音楽はほとんどチェックしなくなってきてしまっているけれど、
未だに新譜が出たらすぐに買うのはバインとカーネーションだけである。そのくらい、好き。
GRAPEVINEは言っちゃ悪いが地味なバンドだ。日本のロックがミクスチャーや四つ打ちなどのフェス志向に移っていった2000年代~2010年代においても飄々と、自分たちが好きなサウンドを愚直に鳴らし続けている。
とはいえずっと同じこと続けているのかというとそんなことはなく、緩やかながら変わり続けている。
GRAPEVINEのことが好きな理由の一つに「ルーツを立脚点にしている」ことがあるのだけど、洋楽フリークでもある彼らには膨大なバックグラウンドがあり、それをどうGRAPEVINEという集合体にフィードバックしアウトプットしていくか、ということを続けている。だからアルバム1枚をとってもすべて毛色は違うし、「今が一番いい」最新型のロックバンドであると思っている。
今回はデビューから23年、すでにベテランの域にある彼らの全16枚のフルアルバムと3枚のミニアルバムについて拙文ながら書いていきたいと思う。多分長くなるので2回に分ける。
覚醒(1997 / 1st Mini)
記念すべきメジャーデビュー作がミニアルバムというからすでにニヒルである。
1997年というのは日本ロックにおいて結構重要な年で、
TRICERATOPS、Dragon Ash、スーパーカー、中村一義、ナンバーガール、スガシカオなどがメジャーデビューしている。前後にはくるりや七尾旅人、ゆらゆら帝国らがメジャーデビューしているわけだから、いかにこの時代の音楽シーンの空気がイケイケドンドンだったかを感じてとても面白い。
今作はメンバー4人がそれぞれ曲を持ち寄って構成されており、すでに「メンバー全員作家」という異色のバンドとして出来上がっている。まだまだメロディや田中のボーカルは粗削りだが、地味ながらブルージーで乾いたギターサウンドとジャムっぽい演奏のグルーブは出来上がっている。
今聴くと若いなーと思うが、20歳そこそこの若者たちのやる音楽にしては渋すぎ。今出てきても十分新鮮だと思う。
個人的ベストトラックは表題曲"覚醒"。
退屈の花(1998 / 1st )
ファーストフルアルバム。
CDジャケットの凝った作りはCDバブル期を象徴しているようで趣深い。
基本的な方向性は『覚醒』を踏襲しているが、田中のボーカルがより鋭利かつクリアになっている印象。
今作でも全員作曲体制で、特にベースの西原の曲が多いかな。すでに亀井の泣きのメロディーメーカーとしての才能は萌芽が見られる。"君を待つ間”はとびきりポップな亀井節の効いた名曲。
"1&MORE"は矢野顕子の名曲"ひとつだけ"をオマージュしているなど、若い故の遊び心があるのも今となっては微笑ましい。曲としては正直それほど聴いていないけど。
個人的ベストトラックは"遠くの君へ"。
こんがらったビタースイートなラブソングも田中らしさがあってよい。
Lifetime(1999 / 2nd )
やっぱりバインの代表作といったらいまだにこれのイメージなのかな。
オリコン3位というバイン史上最高順位を記録した文字通りのヒット作。代表曲も多数収録。
ついに亀井亨のメロディ職人としての才能が爆発したのはここから。
だって"スロウ"、"SUN"、"光について"、"白日"という大名曲を一気に作ってしまっているもの。
冒頭の"いけすかない"(西川作曲)の爽快なギターロックにひねくれまくった歌詞、ボーカリストとしての技量が何周りも大きくなった田中の声、たしかに前作からの飛躍っぷりはこの1曲目からすでに表れている。
上記のような誰もが耳を傾けるような名曲から、マニアックで一般受けしないような趣味全開の小曲まで詰め込んでいるのでやや散漫な印象も受けるが、やはり名作としての評価はゆるぎないだろう。
個人的ベストトラックは"望みの彼方"。PVないから以下は違うけど。もちろん"光について"も最高。
Here(2000 / 3rd )
前作のヒットの重圧の中でリリースされた(であろう)今作は、前作よりは地味なものの、堅実におのれの音楽を追求しているストイックなロックアルバムになっている。マイナーコード多めの切ないサウンドが特徴で、バインの諸作の中でもとりわけ暗い印象を受けるが、"想うということ"や"リトル・ガール・トリートメント"などはシングルではないものの聞き逃しのできない傑作である。
個人的ベストトラックは"リトル・ガール・トリートメント"。
Circulator(2001 / 4th )
ベースの西原が療養のため活動休止している中リリースされた本作は、バイン史上もっとも挑戦と野心に満ちた実験的な作品になっている。バンドサウンドにプログラミングによる電子音を大胆導入し、これまでのロックバンド然とした佇まいから飛躍的に音楽的なアウトプットが広がっていった重要な作品。リボルバー的な作品というべきか。
"風待ち"や"Our Song”といった必殺の涙腺直下バラードや、"discord”や"ふれていたい"などのストレートでアッパーなロックンロールも収録しつつ、新境地ともいえるファンキーなグルーブが強烈な"(All the young)Yellow"や、コーラスの多重録音とノイジーなギターがサイケデリックさを生み出す意欲作"I Found the Girl”など多彩な楽曲で飽きさせない。散漫さを貪欲な音楽探求心が上回っている。個人的には初めて聞いたバインのアルバムのなので思い入れもひとしお。
個人的ベストトラックは"lamb”。バインらしい切なさと高揚感が同居した名曲。
another sky(2002 / 5th )
ベースの西原の復帰作にて4人体制での最終作。
前作のバラエティ豊かなサウンドスケープを推し進めつつ、より外に開かれたようなポップな質感のあるアルバム。
前作はもっと気迫のあるサウンドだったが今作は肩の力の抜けた余裕がある。
"それでも"や"アナザーワールド"といった大名曲が収められているアルバムではあるが、正直それほど聞き込んでいないアルバムでもある。どうも薄味すぎるというか、バインのルーツに根差したような土着的なブルーズ感をもっと求めたくなってしまうのは個人的な好みであるが。むしろ今作を入口にバインを聴き始めるといいかもしれないな。
個人的ベストトラックは"アナザーワールド"。ファン人気5位の問答無用の名曲。イントロのギターで泣ける。
イデアの水槽(2003 / 6th )
ここからバインの第二期というか、彼らが新しいフェーズに入ったと思わせる。
それほど今作は圧倒的に濃密で強烈。ブルースロック、軽快なビートロック、ミドルバラードなどこれまでの武器はもちろんのころ、ポストロック的なアバンギャルドなサウンドも吸収し、これまでのイメージから大きく舵を切った。セルフプロデュースとなったからか、彼らの音楽的バックグラウンドが全面に出たのだろうか。
何よりもインパクトの強い"豚の皿"で幕を上げるのだが、田中のシャウトもすさまじく、ディストーションギターとうねるベースライン、静と動の緩急激しい展開などまさに新境地。今聴いてもすごい。
12曲中10曲を亀井が作曲しているのだが、ここまで振れ幅の広い作曲ができるロックバンドのドラマーってかなり稀有な存在だと思う。
やっぱりベストトラックは"豚の皿"。"ぼくらなら"の情景の浮かぶメランコリー漂う感じもたまらないし、"公園まで"のさわやかさも捨てがたいし、"鳩"の素っ頓狂なイカレっぷりで締めるというのもニクい。
Everyman, Everywhere(2004 / 2nd Mini )
5曲入りのミニアルバムだがフルアルバム並みの重量と濃密度を誇る作品。
今作を最高傑作に上げるファンがいることもうなずける。
3作目あたりの内省的な世界観に戻り、派手なメロディや奇抜なアレンジは影を潜めたが、乾いたギターサウンドと堅実なバンドサウンドで作り上げられている。
表題曲は珍しくストリングスを導入しているが味付け程度なのでJポップに蔓延る感動の押し売りにはまったく陥っておらず、楽曲構成に不可欠な一要素として綺麗にまとまっているのも彼らの美学が見て取れる。
全曲必聴の素晴らしい作品だが、やはり表題曲は聴くべき。
deracine(2005/ 7th )
バインの諸作の中でも指折りのロック気概溢れるクールな作品だ。
疾走感のあるロックサウンドと田中の表現力のあるボーカル&シャウト。繊細さと豪放さが同居した充実作。
相変わらず地味だけど聴けば聴くほど発見と面白さのある地味深さはより高まっている。
個人的ベストトラックは"少年"。ぐっとこらえたAメロから開放されたような力強いサビは聴くたびにグッとくる。
田中の詩人としての才能にも改めて刮目させられる隠れた名曲だと思う。
動画は今作で同じくらい好きな"REW”。これも素晴らしい曲。
だいぶ長くなってきたので今回はここまで。
次作以降からさらなるフェーズに到達していくわけだけど、こうやって改めて聴いていくと、バインは確実に進化しているな。
そして冒頭に書いたとおりGRAPEVINEは今が最高、なので、どんどん個人的にはこれ以降のアルバムのほうが愛聴度は上がっていく。
気が向いたらパート2早めに書こう。