個人的GRAPEVINEディスクガイド Part.02
少し日が経ってしまったけれどGRAPEVINEの個人的ディスクガイドのPart.02を進めていきたいと思う。
誰に頼まれたわけでもなく完全に個人的にやっているものの、こうした機会に改めて聴きなおすのはなかなか新鮮だし、どのアルバムもロック史に残る名盤というから、バインのすごさを痛感しているばかりである。
とりあえず声を大にして言いたいのは「ライブに行きたい」ということ、それだけである。
それでは始めます。
From a smalltown(2007/ 8th )
なんとも言えないアートワークが多いバインの諸作の中でも指折りのおしゃれジャケット。個人的には1番好き。棚に面出しして飾っている。
今作の最大のポイントはやはりジャムセッションで曲を作るようになったという制作方法の新境地を開いたことにあるだろう。特に1曲目でシングルにもなっている"FLY"は高揚感のある展開と伸びのある歌唱が痛快。
一方で同じくジャムセッションで作られた"smalltown, superhero"は静謐なポストロック調のミドルナンバー。地味ながら味わい深い隠れた名曲。
アルバムとしてのトータルバランスも秀でており、目立たないが最も好きな1枚かもしれない。
亀井のセンチメンタルが爆発した超名曲"棘に毒"はファン垂涎の一曲だけど、ベタだけど"指先"が好きだなあ。
Sing(2008/ 9th )
ここらへんからバンドの深淵が加速していくような気がする9作目。
タイトルトラックから始まる今作は、ゆったりとしたスローナンバーで始まり"Wants"というスローナンバーで終わるという非常に内省的で渋い1枚だ。
とはいえシングル曲が意外と多く、アルバムとしてのキャッチ―さは随一。"ジュブナイル"や"超える"あたりは誰が聴いてもグッとくる分かりやすい魅力にあふれた名曲だ。
モーサムかと勘違いしそうなブルースパンク"フラニーと同意"、ユニークなピアノのフレーズが印象的なイントロから始まり突き放したような放心ボーカルが面白い"女たち”など変わり種も多い不思議なアルバム。
"棘に毒"に引き続き亀井の才能が爆発した"Glare”は最高だけど、個人的には”CORE"が一番好き。
PVも最高にクール。
TWANGS(2009/ 10th )
先行シングルは冒頭の"疾走"で、それ以外はすべて新曲という構成ゆえに、非常にとっかかりにくく難解とすら感じるプログレッシブな傑作。初の全英語詞の楽曲"Vex"が収録されていたり、7分超という長尺の楽曲"Pity on the boulevard"が顕著なように、非常に非Jポップ的で洋楽的なアプローチが特徴的である。
ストリングスやキーボード、エレクトロなどバンド編成の範疇に留まらないアレンジワークがより自然体で楽曲における不可欠要素として構築されており、GRAPEVINEがバンドという枠組みから音楽集団的な色合いを強めていく過程が色濃く刻まれている作品であると感じる。まあバインはどこまでいってもロックバンドなんだけども。
あと特に思うのは、ここらへんからのアルバムって音の刻み方がめちゃくちゃ美しい。
別に音響系のサウンドじゃないのに、弦の鳴り、ブラス、ドラムの鼓動、すべてがとっても綺麗で繊細。
個人的には"NOS"のはねたリズムとブルースとシニカルさがないまぜになった独特な世界にやれらる。
変な曲なのにかっこいい。
真昼のストレンジランド(2011/ 11th )
前作のポストロック的難解アプローチから一気に開けたポップさが印象的な1枚。
どこか『another sky』あたりを連想させるような優しさを感じさせるアルバムになっている。
ますますキーボードの存在感が増してきており、かつての「ギターロック」色はかなり後退しているので、そのあたりで好みは分かれるところかもしれない。
”真昼の子供たち"や"風の歌"といったあたりはかつてのバイン節全開のポップナンバーなので新しさとなつかしさを同時に受け取って感動的ですらある。リスナーやシーンに媚びることなく進化し続けてきたからこその原点回帰。
"Neo Burlesque"のプログレとファンクの異形の融合っぷりが新鮮で、好き。この路線を突き進めたアルバムも聞いてみたい。PVは"風の歌"。もっともっと売れてもいいなのになって思わせてくれる名曲。
MISOGI EP(2012/ 3rd Mini )
長年プロデュースを依頼してきた長田進から離れて河合誠一マイケルを起用して心機一転制作された意欲作。
作曲も初めて亀井のみ、という体制で作られた本作はしかし、バインのロックバンドとしての矜持がかつてないほど示されているアグレッシブなサウンドに仕上がっている。
特に冒頭2曲の怒涛の展開は圧巻で、ギター復権といわんばかりにつんざくようなギターが空気を支配している。
前ミニのエブエブも傑作だったけど、バインはEPになると濃度がより高くなるように感じるな。
限られた曲数だというのに、後味の深さと重たさはフルレングス並み。
個人的には6曲の連なりで1つの作品という気持ちが強いためベストトラックの選出は難しい。
でもあえて挙げるならやっぱり最初のインパクトが強かった"MISOGI"かな。
愚かな者の語ること(2013/ 12th )
セルフプロデュースで制作された本作は、ますます孤高という文字に相応しい無二のバンドであることを証明するような作品になっている。だって先行シングルに切るのが"1977"って。いやめちゃくちゃいい曲だけどさ。
一時期のレディオヘッド的なエレクトロ"われら"やR&B的なメロウさが取り込まれた"迷信"あたりは新境地といっていいか。こうした曲も浮つかずにGRAPEVINEとして確立させているのはさすがとしか言いようがない。
今思うとバインがどんどん深淵へ向かっていくピークを記録した作品だ。これ以降は環境も変わって再び外へ開かれていくことになる。
個人的には"迷信"がベスト。PVは"なしくずしの愛"。これもかっこいいなあ。
本当は今回で終わらせようと思っていたけど、疲れたので次回に持ち越すことにする。
次作以降はレーベル移籍に伴い作風がまたずいぶんと変わってくるのでちょうどよい区切りかも。
今回取り上げた諸作はバインの中でもとりわけ玄人好みのするような地味な作品ばかりだけど、
聴けば聴くほど好きになる、という類の典型的なアルバムばかり。おれも年を重ねていくたびに好きな盤になっているものばかりである。
本当はカップリング集や『MALPASO』あたりも取り上げたいところではあるが、そこまではいけないかな、、