やるせなく果てしなく

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トム・ミッシュは軽やかに時代を超える

 

トム・ミッシュは新時代のスターなのか?

ちょうどほぼ1年前、トム・ミッシュの来日公演@新木場コーストを観に行った。

ソールドアウト、会場内は超満員で老若男女、思い思いに興奮をしながらものすごい熱気であった。

 

イギリス出身の23歳の青年が極東の国でツアーをソールドアウトさせるという何とも夢のある話である。

トム・ミッシュはメディアで見せる姿同様に、まったく着飾らず、自宅からフラッと買い物に出かけてきたかのような装いと足取りでステージに上がり、圧巻のパフォーマンスを見せてくれたのが今でも鮮烈によみがえる。

バンドの仕上がりも盤石で、ツアーで鍛えられたしなやかで煌びやかなグルーブは会場を包み込み、圧倒的な幸福感に包まれて夜風を受けながら千石橋を渡りながら帰った。

 

あれから1年、「Beat Tape1」の日本盤リリースやユセフ・デイズとのコラボ作など着実に活動しているトム・ミッシュだけど、改めて彼の名を広く知らしめた「Geography」に立ち返ってレビューしたいと思う。

 

 

 

 

Geographyは優等生なアルバム

彼にとってオフィシャルのファーストアルバムとなる今作は、全13曲、基本的にはトムの歌が主役になっている。

ミックステープ的な立ち位置にあるセルフリリース作である「Beat Tape」の連作はその名の通り、ビートトラックarアルバムとしての意識が強く、今にいたるキャッチ―な歌モノもあるがヒップホップフレンドリーな内容だったのと比べるとバランスがずいぶんと変わっていることは明確だ。

 

 

傑作「Beat Tape2」収録曲。打ち込みのビートと流麗なウワモノの絡み合いが美しい。


Tom Misch - The Journey

 

「Geography」はこれまでの彼を形作ってきた音楽的要素が高次元で結実しながら、根底にあるのは美しいメロディと歌心だ。

冒頭"Before Paris"でファンキーで煌びやかなギタープレイで先制したままなだれ込むように代表曲"Lost In Paris"へ続く展開で早くもハイライト。ディスコテックでダンサブルなアレンジをメランコリックなメロディにぶつけるのはトム・ミッシュの本懐といったところか。ゴールドリンクの渋いバースも実に効果的。

 

その高揚感を失速させずに"South Of The River"に続く。ファンキーなベースラインとギターリフにゴージャスなストリングスを重ねたダンサブルな名曲。使う音数はそこまで多くはないけど巧みにレイヤーされているのでかなり多層的でミラーボールのように乱反射する輝きがある。


Tom Misch - South Of The River (Official Video)

 

続く"Movie"でクールダウンするようにローなテンポに転換。ここらへん同郷サウスロンドンの雄ジェイミー・アイザックにも通じるようなメロウさが立ち上る。

 

他にもヒップホップレジェンド、デ・ラ・ソウルとのアッと驚くコラボ"It Runs Through Me"やスティービー・ワンダーの名曲のギターカバー、今作のテーマの一つであるディスコにぐっと急接近した今作随一のダンスナンバー(その名も)"Disco Yes"など、バラエティに富んだ聴き所の多い作品に仕上がっている。

 

彼の音楽性というのは90年生まれのそれらしく、幼少期から音楽をジャンル、国籍、年代を超えてフラットに聴いてきた経験からなるものだと思う。

ロックンロール、ブルース、ジャズ、ヒップホップ、ダンスミュージック、ファンク、ブルー・アイド・ソウルといった様々な音楽を分け隔てなく吸収昇華したセンスは間違いなくこの時代においてトップクラスのものであるし、国境を超えて指示されるキャッチ―さも存分にある。

 

きわめて優等生でスキのないたたずまいなのでもう少し砕けてくるとより人間味が出ていいのになと思うけど、まだ24歳という若さなので、キャリアを重ねるにつれてどんどんトム・ミッシュとしての必然の音楽というものが出来上がってくるはずである。

 

 

サウス・ロンドンはかつてのブルックリンのようだ

ブルックリン出身のバンドが世界を席巻したのは2000年代半ばから2010年代半ば頃だったと記憶しているが、

今のサウスロンドンはかつてのブルックリンのように、綺羅星の如く素晴らしいアーティストが多く生まれ、それぞれが関係しながら世界のシーンに羽ばたいている。

ここ数年でキング・クルールを筆頭に、ロイル・カーナー、レックス・オレンジ・カウンティ、ジェイミー・アイザック、コスモ・パイク、マイシャ、エズラ・コレクティブといったアーティストたちが台頭している今のサウスロンドンは最も注目すべきホットスポットである。


King Krule - Easy Easy (Official Video)

 


Cosmo Pyke - Great Dane

 

 

トム・ミッシュはこうしたサウスロンドンの同胞たちとも緩やかに交流しながら、

フランスの天才FKJやオーストラリア出身でロンドンを拠点に活動するジョーダン・ラケイ、音楽性でも共振しているところのあるロンドン発のエレクトロソウルデュオのホンネ、イーストロンドンのラッパー、バーニー・アーティスト、日本が誇るトップアーティスト星野源など、シーンや国境を超えて作品を生み出し続けている。

 


HONNE - Day 1 ◑

 


星野源 – Ain’t Nobody Know [Official Video]

 

 

 

若くしてすでに完成の域にあるトム・ミッシュだが、まだこれから進化していくことだろう。

ユセフ・デイズとのコラボ作もとても素晴らしい作品だったし、まだまだ最大限の期待をし続けたいと思っている。